タカヒロの日記

読んだ本や好きなものについて解説と感想を書いていきます。

【解説】『STARTUP:アイデアから利益を生みだす組織マネジメント』のあらすじと書評・感想

今までに紹介した2冊は少々ニッチすぎる内容でしたね。今回は「小説風ビジネス書」ともいうべき本、『STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント』のあらすじと書評・感想を書いていきます。スタートアップについての教科書的内容でありながら、小説形式なので、苦悩する起業家に感情移入しながらリーンスタートアップ、アイデアから利益を生み出す組織マネジメントについて学べる良書だと思います。この本を読んだ方は、感想等を教えてください。

f:id:takaloves:20190320055528j:plain

 

この本について

著者のダイアナ・キャンダーはアメリカのシリアルアントレプレナー(連続起業家)。

本書では起業の方法論としてすでに有名なリーンスタートアップについて、ポーカーの世界大会に出場しているスタートアップ起業家の物語を通じて学ぶことができる。

なお、「リーンスタートアップ」とは最低限の製品やサービスをとりあえず顧客に提供してみて商品が市場に受け入れられるかを確認し、受け入れられないなら改善を繰り返すという手法である。

特にこの本では以下の四つの原則が強調される。

1.スタートアップの目的は顧客を見つけることであって、商品を作ることではない。

2.人は製品やサービスを買うのではなく、問題の解決策を買う。

3.起業家は探偵であり、占い師ではない。

4.成功する起業家はリスクを取るのではなく、運を呼び込む。

 正直、この4つのことについての解説を除けば後は小説パートなので読まなくてもいい気もするのだが、筆者は物語を通じて主人公の失敗を追体験することの必要性を強調しているので、読みましょう。

あらすじ

物語の舞台はラスベガスで行われるポーカーの世界大会WSOP。脱サラして中古自転車販売のスタートアップ「リバイシクル」を立ち上げたオーエンだったが、事業はあえなく失敗。借金を抱え、家族の関係も悪化し、人生は行き止まりにぶち当たったように見えたが、WSOPで女性起業家サムに偶然出会ったことでオーエンは自分の事業の何が間違っていたのかに気づき始める。

f:id:takaloves:20190514161504j:plain

WSOPの最終テーブル

書評・感想

第一部「人はビジョンを買わない」の書評・感想

第一部のタイトルは「人はビジョンを買わない」だが、人は何を買うのか。アマチュア起業家オーエンのメンター的な存在であるサムによると、人は「自分たちの問題を解決してくれるもの」を買うのだという。

つまり、事業がうまくいっていない理由として考えられるのは「存在しない問題の解決策をつくってしまった」、「顧客が問題があると認識していないか、重要とは思っていない」、「商品が顧客の問題を解決できない」のいずれかであるということだ。

起業前、オーエンはロードバイクの価格が高騰していることを問題であると考えていた。その問題を解決すべく、オーエンのスタートアップは高品質な中古自転車のパーツを安値で買い集め、それを組み立てなおし、高品質・低価格のロードバイクをネットで販売するというビジネスモデルを取っていた。

ここで重要なのは、「高価格」という問題が果たして顧客にとって本当に重要な問題なのかということである。ロードバイクの価格高騰が問題であるというのはあくまで仮説であって、仮説は検証されなければならない。続く第二部「仮説で勝負するのは危険」ではこの検証の方法が解説される。

f:id:takaloves:20190514161735p:plain

高すぎぃ

第一部はリーンスタートアップの方法論、すなわち「顧客がいるかどうか見極めるまでは、他に何もすべきでない」ということの解説である。顧客がいるかどうかを見極める前に商品名やロゴ、ウェブサイトのデザインに力を入れたオーエンが「できることは何でもやった」にもかかわらず、うまくいかない様子がリーンスタートアップと対照的に描かれている。

感想としては、「面白いっちゃ面白いけどこれだけのことを言うのにこんなに回りくどくなくてよくないか?」といったところ。小説風ビジネス本なので、小説としての面白さはおまけ程度だし、和訳本特有の言い回しも正直くさい、、、

第二部「仮説で勝負するのは危険」の書評・感想

 第二部では仮説は必ず検証してから実行に移すべきだということを教えられる。この本の中で特に強調されるのはインタビューによる仮説検証の重要性だ。

オーエンは自転車屋に潜り込んで顧客にとって自転車の価格がどれほど重要なのかをインタビューし、自分が思っていたより顧客は価格に鈍感であることに気が付く。また、顧客は試乗できるかどうかを重視しており、ネットで自転車を買うケースがほとんどないことにも気づかされる。

この部では効果的なインタビューの仕方も解説されており、「○○しますか?」という質問は禁忌であることが強調される。このようなイエス・ノーで応えられる質問は往々にして誘導尋問的になってしまい、顧客の正直な気持ちが聞き出せないからだ。

禁忌となる質問はかなり重要なことだと個人的には感じた。世の中には様々なアンケートがあふれていて、YouTubeの広告にさえアンケートが張られていたりするが、中には意図的に「はい」を選ばせようとしているのではないか?と思えてしまうようなものも少なくない。

第三部「正解を知るのは顧客だけ」の書評・感想

第三部でも第二部で語られたインタビューの重要性が再度強調される。また、起業とポーカーを重ね合わせて、運についても語られる。

この部は小説部分が多く、あんまり示唆に富んだ内容ではないのだが、学べるところを強いて挙げるならば「ポーカーでも事業でも運頼みは良い戦略ではない。良い戦略こそが運を呼び込む。」という記述だろうか。

トーナメント終盤までテーブルに残ることができたオーエンは慎重に立ち回り、優位なポジションで強いカードを手にすることができた。相手の手札を見誤り不利な勝負に出てしまうが、奇跡的に勝つことができたのはそれまでの戦略がよかったから、ということだろう。

ここで判断をミスったオーエンを勝たせるのは小説的に面白くするためだけだと思うのでそんなに深く考える必要はなさそうだ。

第四部「仮説を証明し勝負にでる」の書評・感想

最終章である第四部では顧客にインタビューする際のインタビュアーは創業者でなくてはならない(部下にやらせてはいけない)、顧客に行動を起こしてもらうのに必要な時間と資金を最小化しなければならない、などのアドバイスが強調されたのち、オーエンがそれを実行して、顧客が真に解決したいと考えている問題を発見するまでが描かれる。

物語もクライマックスに差し掛かり、最終テーブルを賭けたハイレベルなトーナメントが始まる。(この本のポーカー大会パートはおまけなのでしょうもない。)

この本は小説でありながら、リーンスタートアップの教科書でもあるという特徴を持つ本なのでこのようになってしまうのは仕方がないのだが、物語自体はきれいにまとまっているもののそれほど面白くない、単純にリーンスタートアップを学びたいならもっと詳しい入門書が複数出版されている、といった風に中途半端になってしまっている感が否めない。

f:id:takaloves:20190514162255j:plain

一方で、筆者が強調する失敗を追体験することの重要性に関していえば、このような本は他になく、そういった意味でこの本には独特の価値があるといえるかもしれない。

おわりに

 アマゾンでポチポチしてた時に見つけて、レビューの評価がいいから買ってみた本です。正直、なんでこんな評価高いのだろうか、、、となったのは否めません。小説としても中途半端(単純に面白くない)、教科書としても中途半端(最初にまとめた原則以上のことを学べない)じゃないかなあ。

起業について本で学ぶとか無理なんかね、やっぱ自分でやらないと。